これまでの主な研究内容


 強磁場を利用する磁気科学・技術

 非常に強い磁場は水のような弱磁性物質に対しても顕著な力学的作用を与えることから、磁場を利用して重力や対流などを制御することにより種々の物質・材料の製造プロセスを制御する可能性が広がり、新しい科学・技術の領域が生まれ始めています。一方、タンパク質のNMR計測、核融合、リニアモーターカーなどの分野では、超伝導磁石によるさらに強い磁場の発生が期待されています。

1.弱磁性物質に発現する誘起磁気双極子相互作用に関する研究

 強磁場中では一般に磁場に反応しないと思われている物質が反応します。例えば、強磁場中では反磁性物質の水が宇宙空間と同じように浮上します。また、強磁場下では溶媒中の弱磁性粒子が溶媒との磁化率差により発現する誘起磁気双極子相互作用により、自己組織的に三角格子構造を形成します。前者は強磁場と物質との相互作用、後者は強磁場中での物質間の相互作用による現象です。

塩化マンガン水溶液の磁気浮上 磁気アルキメデスを利用した増強モーゼ効果

 地球上のすべての物質は程度の差はあるが磁性を持っています。近年、弱磁性物質に非接触で反応・作用することが可能な強磁場が材料プロセスの分野で取り入れられています。固液二相の場合は、磁気アルキメデス効果を利用することで固体の磁場効果が増強されるために、溶媒中の微粒子の挙動や構造に影響を与えることができます。例えば、塩化マンガン水溶液(常磁性)中の金やガラス粒子(反磁性)は誘起磁気双極子相互作用により三角格子構造やチェーン構造を形成します。これら溶液中の粒子が形成する粒子構造のメカニズムを実験と数値シミュレーションを利用して解き明かし、材料プロセスにおける強磁場利用の可能性を探っています。

金粒子の三角格子構造 ガラス粒子のチェーン構造

上記現象の数値シミュレーション
画像をクリックすると動画をみることができます(Quick Time Playerが必要です)。


2.線材化を必要としない超伝導マグネット製造法の開発研究

 超伝導マグネット製造の新しい方法として、従来の冶金学的な長尺線材化技術に頼らない新しい方法を提案しています。新しい製造方法では、直径Dの円筒基板上に超伝導体を直接らせん線状に形成することにより、一層分のソレノイドコイルを得ることができます。超伝導マグネットは、このような円筒コイルを同心円状に多層化することにより構築します。この方法では、マグネットを製造するために必要な超伝導体形成技術はコイル一周分であるπDの長さで十分であり、適切な製造方法を採用すれば、原理的にどのような物質にも適用可能となります。最初の試みとして、NbAlを選択しました。まず、NbとAlの混合粉末をコールドスプレーにより円筒基板上に付着させます。その後、この混合層上に電子ビームをらせん状に照射することによりNbとAlを反応させ、一層のNbAl超伝導ソレノイドコイルを作製します。





 コロイド分散液の動的特性に関する研究

1.コロイド分散液の膜ろ過に関する数値流体力学的研究

 コロイド分散液の膜ろ過は、浄水処理や廃水処理、海水淡水化前処理などの水処理分野、食品分野などに不可欠の技術です。膜ろ過を適用する上で常に問題となるろ過速度の低下は、主に膜面および細孔内での微粒子堆積による細孔閉塞(ファウリング)に起因することから、そのメカニズムや堆積粒子の構造を把握することは極めて重要となります。これらは、コロイド溶液の原液濃度や作用圧力、膜の開孔比はもちろん、コロイド分散液のDLVO力にも影響されます。高濃度微粒子系を扱える固液混相流の数値シミュレーションを用いた粒子運動と流体力学的見地からこの問題にアプローチしています。

2.せん断場における高濃度コロイド分散液の数値流体力学的研究

 微粒子分散液の塗布過程において、品質と効率に影響を与える塗液のレオロジー特性はせん断場で形成される粒子系構造に起因します。高濃度の微粒子分散液では、せん断速度に応じて分散液の粘度が変化します。低せん断場では、せん断速度の増加とともに粘度が低下するshear thinningが、高せん断場ではせん断速度の増加とともに粘度が上昇するshear thickeningが観察されます。高濃度微粒子分散液の三次元流れシミュレーションを行い、得られた粒子系構造を可視化して比較することで、高濃度コロイド分散液のレオロジーの問題に取り組んでいます。

上記は以前私が携わっていた、産学連携メソシミュレーション・コンソーシアムからの継続研究です。


 磁場下の導電性流体流れに関する研究

1.導電性流体を駆動する回転ねじれ磁場誘導型電磁ポンプの研究

 導電性流体は電場・磁場に反応する機能流体です。非接触での流量制御が期待される高温溶鋼を扱う製鉄プロセスにおける生産性向上とメンテナンス性向上を目的とし、導電性流体に非接触で直進・回転の複合駆動を誘起する誘導型電磁ポンプの開発を行っています。従来の電磁ポンプは、磁場を流体に垂直に印加させるために管中央に鉄心を必要としますが、この回転ねじれ磁場誘導型電磁ポンプは鉄心が不要のため、流路内に鉄心を設ける必要がありません。実験、理論、数値解析の面から研究を行っています。

液体ガリウム循環小型装置

安藤 努 のページへ