脳を宿す手

 昨年読んだ本で特に印象に残ったものは「手に映る脳,脳を宿す手」Goran Lundborg著 砂川 融(監訳)(医学書院)と「夢をかなえるために脳はある」池谷裕二著(講談社)。どちらも脳に関する本であった。

 1冊目の本は、多くの学術文献を引用しながら人類の進化の過程を手と脳の関係から辿る歴史の物語である。二足歩行になったばかり人類の祖先(ヒト族 アルディ Ardi)の脳の容積は350 ccほどで現在の人の脳の約4~5分の1ほど。私たちの祖先が手を使って道具を作り、手を使って火を起こし、火を使うようになって人類はここまで進化してきた。まさに手は脳を宿している、ということになるのだろう(一言で要約してしまって大変申し訳ないのですが)。手による脳内のシナプス結合の活性化やニューロンの働き、意思で制御するロボットハンド、すなわちBMIに関する話まで、手と脳に関する太古から近い未来までの書である。

 2冊名の本は脳科学者が高校生を相手に講義形式で脳科学研究の『今』を分かり易く説明してくれる本。この著者の本はとても面白く、何冊も読んでいる。著者曰く、脳講義シリーズ三部作の完結編とのこと。これもタイトル通り脳の話なのだが、生後すぐに手足を拘束されて、手足の使用を禁止された動物は(目の機能は正常なのに)目が見えないという実験結果(ネコのゴンドラ実験;1963年の論文!)は衝撃的であった。
 身体を使った運動経験が「見え」を作る。受動的に変わる風景を眺めているだけでは不十分、とのこと。

 手足を使った体験や経験、それも能動的な体験が如何に我々人間が生きていく、また生存していく上で大切であるかということをこの2冊の本が再認識させてくれた。
 手をつかう、手を動かす、すなわち脳を使うこと、なのである。

2025年03月12日