IML2
今月の日本経済新聞朝刊『私の履歴書』の連載は宇宙飛行士の向井千秋さん。一昨日と昨日(9/11, 12)は向井さんがスペースシャトルに搭乗したIML2(第2次国際微小重力実験室)プロジェクトに関する話だった。
IML2は、私がIHIで担当したプロジェクトの一つで、あまりにも昔のことで素直に懐かしかった。そうかんじるのは、私がこのIML2プロジェクトに関わったのは1989年11月のベルリンの壁崩壊に象徴される東西冷戦終結による偶然であり、一時的なお手伝いという形のため、それ程重圧を感じなかったためでもあるだろう。向井さんの記事では1992年10月に搭乗が決まり、1994年7月頃打ち上げ、とある。
当時の私の主担当業務は、ドイツと共同のExpress というUSEF(現在、J-spacesystem:一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構、という組織になったらしい)の宇宙実験プロジェクトであった。東西冷戦終結に伴う東西ドイツ統一などドイツ国内の混乱のため、プロジェクトが一旦休止してしまった。そこで、フライトを控えて忙しいプこのプロジェクトを手伝うことになった。私が任されたのは、スペースシャトルに搭載する実験ラックや実験装置など艤装品の試験や流量供給バルブ調整試験などで、まあ何でも屋だ。
印象に残っているのは、スペースシャトルに搭載する装置群のオフガス試験である。主担当のExpressプロジェクトは無人実験だが、このIML2は有人実験のため、対人間のための様々な制約が装置設計に存在する。それら条件はPayload
accomodation handbookという分厚い資料に記載されていた。例えば、購入したばかりの新車は独特の臭いがするが、これは主に樹脂表面や塗料、接着剤など揮発性の物質の臭いで、人間にとって有害な毒性を持つ有機物質が多く含まれている。地球上では大気中に自然と揮発してしまい、さほど問題にならないが、スペースシャトルのような閉鎖空間に搭載するのには問題となり、何の成分が何ppm以下と規制がある。ちなみにこのPayload
accomodation handbookという分厚い資料には、装置の角はR何mm以上にしろ、厚さは何mm以上と人間工学的な分野に及んで規定されており、この書類(書籍?)だけでもアメリカの凄さを感じた。
これら搭載装置群のオフガス試験を行い、放出ガスの成分を検査するのであるが、いきなり試験をしたら当然アウトになるため、あらかじめベーキングといって、温調可能な人が4、5人ほど入る位の大きな恒温装置に装置を入れてガスを放出させる。ベーキングした装置をつくば宇宙センターに持って行ってオフガス試験を受けるのだが、これがそう簡単には合格出来なかった。
結局合計三回、つくば宇宙センターにオフガス試験のために足を運んだ。1,2回目はトラックで装置群を輸送したが、3回目は何故だが分からないが、実験ラックのパネル1枚が不合格ということで、車のドアのような人の胸まであるパネルを東京の西多摩郡にある瑞穂工場からつくば宇宙センターまで一人電車を乗り継いでハンドキャリーで持って行き、試験を受けた。この3回目で運よく合格できた。装置設計・製作において、最後は計算では予測出来ないこともあるということだ。