コロイド分散液中粒子の動的挙動(メソスケール・シミュレーション)
我々の身の周りにある液体は水のような単相のものは少なく,液中に微粒子が分散している混相状態のものがほとんどです.そのため,製造現場においても単相とは違った諸現象(課題)がみられます.これらの興味深い現象は作業工程内のせん断力の他に,コロイド粒子のブラウン運動やDLVO力にも起因するといわれていますが,未だに解明されていないものも多くあります.研究室では共同研究先が開発している数値計算シミュレーター (SNAP) を使用してこれら物理現象のメカニズムを解明することに取り組んでいます.この中の取り組みには,膜ろ過プロセスにおけるファウリング現象やMR流体や磁性流体中の磁性粒子の磁場中構造形成やせん断場における見かけ粘度のせん断との相関に取り組んでいます.
デッドエンド膜ろ過シミュレーション(SNAP-Fを使用)
クロスフローろ過後の膜面上堆積粒子のせん断剥離(SNAP-Fを使用)
磁性粒子の磁場中チェーン構造形成(SNAP-Lに磁場効果を組み込んで使用)
せん断場中のMR流体粒子(SNAP-Fに磁場効果を組み込んで使用)
固液混相における粒子流れの研究
人や動物,粉粒体など様々な‘もの’の流れを円滑にすることは経済損失の低減や生産プロセスの効率化を図る上で重要です.一方,人などの自己駆動粒子,粉体などのNewton粒子共に通路幅が急激に狭くなる箇所で,停滞や閉塞は対象物に関わらず普遍的に発生します.これらの緩和手段に急縮小部手前に障害物を意図的に設置する方法があり,これまで数値シミュレーションや実験により粉体流での停滞・閉塞緩和効果が報告されていますが,固液混相流れを対象とした効果はどうやら報告されていないようです.化学,食品,土木等の産業における原材料の輸送過程,製品および製造過程において固液混相流の移送は非常に多く用いられており,固体粒子の大きさもナノオーダーからミリオーダーまで様々です.実験と数値シミュレーションにより固液混相流中の粒子流れの諸問題を研究しています.
障害物の有無のよる流線(SNAP-Fに障害物を挿入して使用)
障害物の有無による残留粒子;左:障害物無し、右:障害物あり(SNAP-Fに障害物を挿入して使用)
固液混相流の疑似2次元実験装置
磁場を利用した磁気科学・技術に関する研究
超電動マグネットによる強力な磁場の中では,磁場に反応しないと思われている物体が磁場に反応します.例えば,水は磁場に反発して浮上します.この強磁場による磁気力を利用することで様々な興味深い物理現象が得られます.磁気アルキメデス浮上による色ガラス小片の磁気分離(下左図),金粒子の三角格子構造(下右図),磁場配向に影響する周囲媒体挙動,磁気フィルターによる磁気分離があります.これらの物理現象を工学的応用研究に結び付けるための研究を実験と数値解析によって取り組んでいます.これら超電導マグネットを利用する一連の研究は,(独)物質・材料研究機構と共同で行なっています.
色ガラスの磁気浮上(左図)と気液界面上に磁気浮上した金粒子の三角格子構造(右図)
高勾配磁気分離における磁性ワイヤフィルターに捕獲された磁性粒子
硫酸銅水溶液の磁気浮上水溶液の磁気浮上の様子
磁場下の導電性流体流れに関する研究
導電性流体は磁場または磁場と電場の重畳に反応する機能性流体です.非接触での流量制御が期待される高温溶鋼を扱う製鉄プロセスにおける生産性向上とメンテナンス性向上を目的とし,導電性流体に非接触で直進と回転の複合駆動を誘起する誘導型電磁ポンプの研究を行っています.従来の電磁ポンプは,磁場を流体の流れに垂直方向に印加させるために配管の中央に鉄心を必要としていましたが,この回転ねじれ磁場誘導型電磁ポンプは鉄心が不要なため,流路内に鉄心を設ける必要がありません.実験,理論,数値解析の面から研究を行っています.近年,0.1 T程度の大きな磁場を発生させるネオジム磁石が出現したことで,永久磁石を回転させる電磁誘導ポンプの可能性についても探索しています.
羽根なし撹拌機の基礎研究
食品,化学,製紙などあらゆる工業分野の生産プロセスの一部に撹拌工程があります.撹拌は駆動源からのエネルギーを撹拌軸から羽根に伝達させて,濃度の均一化,粉体の溶解,気泡の微細化や伝熱等の目的を満足させるのに有効な流動状態を直接的に撹拌槽内の流体に与えます.最近,遠心力を利用した羽根がない撹拌機が提案されています.羽根が無いために大きなせん断力が生じないなどの利点があります.この“羽根無し”撹拌機の基本性能の把握を高速度カメラによる可視化や数値解析を利用して行っています.
Re=150における流脈パターン;上:3次元,下:2次元
数値解析による流線と速度場(速度分布,速度ベクトル)